日記とオーディオネタ
by conrans
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2007年 06月 28日
内子・片岡食堂
内子路をカマロが低いエギゾーストノイズで走る。
「昼だな」
「昼ですね」とテツ。
「昼ですねとはなんだ?ん?またどつきまわされたいのか、この野郎」
「ひぃっ、混乱凶さん。ブツは用意してますって」
「ブツとかいうなよ、だせーな。早く連れて行けよ」
テツがひと気のないマチをゆっくり転がす。
マルボロの煙を窓から吐き出し、いったいどうなってるんだぁこのマチは。裸の爺さんと下着の婆さんしかいねーじゃねーか。美観地区とかいってる場合じゃねーよなこれじゃ。
暑いひかりが、よけいにこのマチを色褪せて見せている。
「着きました」
「間違いないんだろうな」
「ええ、タウンシティ松山で。昔ながらの中華そばであっさりとして旨いらしいです」
「なんだと?こら。中華そばイコール昔ながらであっさりか?てめえそんな記事を信じてんのか。演歌なら日本の心か。秋葉原ならメイドか?ん?ちくしょう、嫌な感じがするぜ」
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昼前だか、気の早い地元の作業着が随分と腰掛けていた。
片岡食堂か。店はばあさんひとりでやっている。
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「テツ、ほらみろ。このどこがあっさりしてんだよ。脂多めでこってりじゃねーか。ばかやろう。昆布とカツオの香りは薄めで塩キツメだろ?てめえも1億総みのもんた化じゃないんだからイメージだけで簡単に物事をくくるなってんだよ。中華そばだってイロイロあるんだよ。いなりつきで600円。てめえが払っとけと言いたいとこだぜまったく。」
テツは借金のカタにハタチの時に預かった。中学しか出ていないのでオツムは弱いが、最近シノギの合間に文庫本を読んだりして、コイツなりにはやっている。
「大洲へ行くぞ」
「えっ?シノギの時間迫ってますよ」
「ひっぱたくぞてめえ。サラリーマンか?もっとドタマ使え。もうすぐ渇水だろ?渇水に備えて食っとくんだよ。く・い・だ・め。福ちゃんいくぞ、早く車出せ」
カマロの中はひどく暑かった。全然効かないクーラーと早くもさっき食ったこってり中華そばの脂分が皮膚から噴出しているせいだろう。
暑さのせいか、数日前の銃声と悲鳴が頭の中をこだまする。あの時同様、今日もあと味が悪かった。なんとかそれから逃げたいような気分だった。いくぶんか車内の暑さが落ち着いたところで口の中の脂を消したくて煙を大きく吸い込んだ。タバコを窓から投げ捨てる。
「すいてんな」
家族連れ客のほかはがらんとした福ちゃんの店内には、小堺一機がさいころの目をアホ面で読み上げている声が響いている。カウンターに腰掛け、おもむろにだれた顔をあげる。
「冷やし中華」
「あっ、鍋焼きラーメン」
ふたりともしばらく無言でカウンターの中をぼんやり眺めていた。
ぼんやりした頭で酔客をジャンキーに、ネオンを物語りに、夜を現実に、酒をドラッグに置き換えてみた。違いは何もないように思えた。
水のはいったコップを一気に飲み干したところで店主がカウンターから差し出した。
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「テツ。これが500円だぞ。麺2玉。みろよ、これが良心だろうって」
「あっ、俺もそれにすりゃーよかったですね。」
「もひとつ食やあいいじゃねーか」
辛子が溶かれた出汁が、ぼんやりとした脳天をふるわせた。これだよてめえ。最近はインポになった強姦魔くらい役に立たぬモノが多いが、ココのは奮い立つ。自然と溜息がもれる。本能の覚醒と理性の沈没。これはドラッグだ。
隣で口をへの字に結んで神妙な顔をしてテツがいう。
「うまいですね」
「うまいときは恍惚な顔をしろよ。落とし前つけてんじゃねーんだから」
外にでた。
風はなく、マチ全体が白い陽だまりの中でまどろんでいた。
夜になれば夜のシノギが待っている。窓外を流れていく遅い午後のマチなみを眺めていた。
「もり幸行くか?」
「ひぃっ、勘弁してくださいよ。そんなお腹になりたくないっすよ」
混乱凶の怒声罵声が車内をふるわせた。テツは毛穴どころかケツの穴まで開いてしまいそうな痛々しくも頓狂な悲鳴をあげた。

夜、二人は死んだ。これが最後のメシになった。食って救われぬ人生があった。
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by conrans | 2007-06-28 06:52 | 外食 トップ▲
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